BLACK SMITHEとは
「鍛冶屋」を意味する本コレクションは、「無骨なシルバー職人が趣味で作ったシルバーアクセ」をイメージしている。本体には、クラウン・クロス・リリー・ライオンを刻印。
03年の初リリースから20年の復刻にあたっては、シルエットやデザインなどにも現代的なエッセンスを加えた。仕上げの磨きにもこだわることで、着け心地も最高に。
シンプルが好まれる今だからこそ、昔ながらのスタンプワークは、現代にマッチするあしらいになる。象徴的なスタンプワークはそのままに「古き良き時代のシルバーアクセサリー」の素晴らしさをまとったコレクション。
製造工程
企画を立てる
アクセサリーのコンセプトを決め、アイテムのラインナップや装飾(細工)、素材などを決める。「BLACK SMITHE」はコレクション復刻のため、今回はデザイン細部の見直しからスタートした。
デザイン
製作するアクセサリーを原寸大で三面図(正面・平面・側面の3つの外観図)に起こす。
デザインの構造によっては、パーツごとに描く場合も。頭の中で立体をイメージし、デザイン画に起こすため、製作工程全体を把握している必要があり、一定以上の経験がないと難しい作業です。CADデータ(ジュエリーを3Dプリンターに出力するためのデータ )を作成するなど、その後の製作方法によって作業が分岐します。
原型製作
ロウソクに似た「ワックス」という素材で、製品の原型を製作。
ワックスには様々な形や粘度のものがあり、製品ごとに適した素材を選び、加工します。
鋳造で金属になることをふまえ、この原型製作の時点でも細部までしっかり調整をします。3Dプリンターでワックス原型を製作した場合にも、細部の調整は職人の手で行います。
鋳造(ちゅうぞう)
ワックス原型を金属にする。ワックスはロウ同様、高温で溶ける素材なので、石膏などの耐熱素材で固めます。さらに石膏を焼成し、ワックスを溶かし出したあとの空洞に、溶けた金属を流し込みます。ワックス原型の大きさや、金属の種類によって、使用する機材や火の温度も変更し、調整します。
細工
鋳造されたばかりの金属は光沢感がないため、特殊な機材で艶を出します。また、使用金属素材を示す刻印や、ブランドロゴなどの刻印を打ちます。また、パーツの接着加工が必要な場合も、このとき行います。BLACK SMITHの特徴である、「いぶし」も、ここで行います。溝を黒くすることで立体感を強くする効果があります。
研磨
バッファーやハンドリューターなどの研磨用機材を複数使用し、金属が本来持っている輝きを取り戻します。ヤスリで研磨する場合と同じく、粒子の荒い研磨剤から順に磨いていきます。金属が歪まないよう力加減を細かく調整する必要があり、研磨の工程は完全に手作業で行われています。
検品
ルーペによる目視や、直接触れることで、細かなキズの有無や耐久性の確認をします。研磨と同じく、一つひとつ熟練した担当者によって検品が行われ、すべての基準をクリアした商品のみが店頭に並び、販売されます。
BLACK SMITHができるまで
LION HEARTの製品づくりで長年お世話になっているアトリエ・エヌの高橋さんに、BLACK SMITHの製作秘話や、アクセサリーづくりのテクニックについてお話しをお伺いしました。
LION HEARTとアトリエ・エヌのお付き合い
——お取り引きは何年くらいになりますか
私が担当になってから、10年ほどになります。最初は上司が担当しており、その後私が引き継ぎ、現在に至ります。私が担当して初めてのご依頼は、コレクションではなく単発の企画で、ハワイアンテイストのリングをつくりたいというお話しでした。
——LION HEART(以下LH)がお願いしてきたお仕事には、どんな特徴がありますか
私たちは、クラフト感が強いアクセサリーづくりを得意としています。LHから持ち込まれる企画でも、独特なテクスチャーのあるものを求められることが多いので、お互いそこを共通認識として、ご依頼いただけているのかと思っています。たとえば、布のテクスチャーや、封蝋をモチーフとしたもの、槌目の風合いがあるアクセサリーなどですね。
——LHというブランドに対する印象や、現デザイナー川瀬が企画するアイテムへの印象は
以前は、ラグジュアリーで男性的な雰囲気のジュエリーブランドという印象でしたが、最近は、文字やキャラクターがモチーフのコレクションなど、グラフィカルで、ポップな印象を強く受けるアイテムが増えているように感じます。アクセサリーのテイストには変化を感じますが、完成形に求めるクオリティは当初から変わりなく、細部まで追求され続けていると思います。
コレクションの復刻について
——「BLACK SMITH」の初代リリースは03年、20年に復刻させました。製作にあたり配慮されたことなどはありますか
以前のイメージを壊さないように意識しつつ、古さを感じさせないようにデザインをしました。前回製作時の資料と細部の表現についてディスカッションしながら、初代BLACK SMITHの原型をベースに、新たなデザインを提案させていただきました。
▲リデザインされた展開図。細かな注意点が記載されている。
——今回に限らず、以前のコレクションを復刻、またはリニューアルするような場合に気をつけていることはありますか
復刻するということは、LHのみなさんが、今あらためてそのよさを感じているということですよね。だから、以前のデザインの良い部分を拾い上げつつ、今の私たちが「カッコいい」と感じている新しい要素をかけ合わせて、製品に落とし込むことを意識しています。
▲左が復刻、右が初代。デザインもだが、指にあたる部分が改良され、各段につけやすくなっている。
デザイン画から実物をつくるまで
——デザイン画から原型を起こすときに気をつけていることやこだわり、難しかったところは
デザイン画はあくまで2次元(平面)なので、3次元(立体)に置き換えるときに必ず誤差が生じてしまいます。そこで私は、デザイン画を見るとまず頭の中で立体に置き換えた状態を想像します。デザイン画を原型師に渡して原型製作を依頼するときも、立体に基づいて説明をし、詳細の打ち合わせをします。デザインするところからご依頼いただく場合も、デザイン画の段階で、立体にした際の注意点や、デザイン上、どこを最も魅力的だと感じているかを確認しながら、進めるようにしています。
私は美術大学出身で、受験前と在学中合わせて、かなりデッサンをしました。アクセサリーの工程とは逆ですが、立体物を平面で表現するときの視点は、現在の作業にかなり生きていると思います。
——原型製作から実際の製品をつくるまでの工程で、気をつけていることや難しさを感じていることはありますか
原型製作のあとは、鋳造し、研磨する工程が入ります。どのくらい磨くのかはアクセサリーのデザインの特徴によって異なるので、事前にしっかり指示をするようにしています。とくに海外で生産する場合は、現地のスタッフへ加工の加減を伝えるのに難しさを感じますね。製品に求められているものは何か?を念頭におき、ていねいにやりとりを重ねることで、今ではこちらの意図どおりに戻ってくるようになりました。
▲アクセサリーを磨く機材(バッファー)と使い込まれたハンドリューターのポイント。
BLACK SMITHならではの特徴的な作業
——BLACK SMITHは、他の製品とくらべて、特徴的な作業工程や苦労している点などはありますか
とても味があるというか、ニュアンスのあるところが特徴のコレクションだと思います。なので研磨をするときはエッジが出さないように、あえて磨き込んで、表面をだらす(滑らかにする)ようにしています。
——デザイン時に「ヤスリ跡やまばらな歪み感」を残すという指定をいます。その再現で苦労したところや工夫したことはありますか
今回は、あえて原型の段階で、強めのテクスチャーが残るように製作しました。刻印なども、鋳造の段階ではかなり深めに入れておき、研磨の工程でしっかり磨くことによってそれが馴染み、求められている完成形になるよう逆算してつくりました。
たとえば、「のこぎりで切ったような跡」がついているというところで、傷跡が残りすぎると手作り感が強くなってしまう。加減が難しいですが、最後までしっかりと磨き上げることで、質の高い仕上がりになっているのではと思います。
▲特にこだわった、リング側面のテクスチャーについて解説いただきました。
アクセサーの良し悪しや、この仕事の面白みについて
——アクセサリーの出来の良し悪しは、どこで判断していますか
正直それは、デザインによってまったく異なるので、一概には言えません。だから、個人的な判断で動くことはほぼありませんね。デザイン一つひとつに答えがあるので、LHの要求に応えられるよう、常に意識しています。
——最後に、高橋さんがこの仕事に取り組むうえで大切にしていることや、面白みを感じているところはどういうところですか
私の仕事は、自分でイチからデザインしてつくるものとは違います。お客様がイメージされているのはどういうものかをしっかり汲み取り、製品に落とし込むことができてはじめて、良い製品がつくれたということになります。また、いかに少ない打ち合わせで汲み取ることができるかというのも、大切にしています。
いいものが出来たときは、いち早くサンプルを見てもらいたい!という気持ちになりますし、お見せして反応がよかったときには、特に喜びを感じますね。
——本日はアクセサリーづくりについて詳しくご説明いただき、ありがとうございました!